2021年5月号「富士山が噴火したら」

2021年3月に、17年ぶりに富士山の噴火を想定したハザードマップが改定されました。今回の改定の特徴として、次の富士山噴火が頻度の低い大規模な噴火になる可能性で想定されていることです。具体的には、大規模な噴火で流れ出る溶岩の量がこれまでのおよそ2倍の13億立方メートルになり影響する範囲が拡大するという内容です。

例えば、
●富士山ふもとの自治体では溶岩流が市街地に到達するまでの時間が短くなる
●溶岩が流れ下る範囲が、40キロ以上離れた相模原市や山梨県上野原市のほか、神奈川県小田原市、静岡市清水区など新たに3県の7市5町まで
 到達する

●JR中央本線や中央自動車道まで溶岩が到達する
●降り積もった火山灰が噴火で雪が融け、泥流となって流れ下る「融雪型火山泥流」や大きな噴石の到達範囲

など、今回の想定では従来の想定以上に人命、暮らし、地域、人の移動、物流に多大な影響をもたらします。

富士山が大規模噴火したときに首都圏で心配されること

首都圏への影響については、昨年の国の検討会において火山灰が首都圏に集中して降った場合のシミュレーションを公表しています。振り返りますと、富士山で大規模な噴火が発生した場合、周辺で1メートル以上、噴火から3時間で火山灰が東京、神奈川、千葉、埼玉にまで達し、首都圏でも数センチから10センチ余りの火山灰が積もり、交通機関やライフラインなどに影響が出るという内容でした。これを機にいま一度、富士山噴火への備えを考えましょう。

まず、降灰の社会的影響を整理します。

●鉄道
地上の鉄道は、微量の降灰でも運行停止し、地下の鉄道も需要増や車両・作業員の不足等で、運行停止や輸送力低下が起きます。また、停電エリアでは全ての運行が停まります。

●道路
乾燥時には10cm以上、降雨時は3cm以上の降灰で滑りやすくなり二輪車が通行不能となります。これ以下でも視界不良や、道路上の火山灰などで速度低下や渋滞などで交通障害が発生します。

●物資
需要増や買占めにより食料・飲料水等が売り切れます。また、道路に支障が出ると、配送や店舗営業ができなくなり生活物資の入手が困難になります。なによりも農作物が収穫できない状態になり慢性的な品不足になります。

●移動
鉄道の運行停止や道路渋滞により一時滞留者が生じ、通勤、通学、外出が困難になります。また、空路、海路の移動にも制限がかかります。

●電力
降雨時には0.3cm以上の降灰で碍子の絶縁低下により停電します。数cm以上になると火力発電所の発電量が低下し、供給力が十分に確保できないと停電します。

●通信
降雨時には、基地局等の通信アンテナへの火山灰付着により通信阻害が起きます。停電エリアでは、非常用発電設備の燃料が切れると通信障害が発生します。

●上水道
水質が悪化して浄水施設の処理能力を超えると飲用に適さなくなり、断水になります。また、停電エリアでは、浄水場及び配水施設等が運転停止し、断水します。

●下水道
降雨時には下水管路が閉塞し、雨水があふれます。また、停電エリアでは、処理施設・ポンプで非常用発電設備の燃料切れにより、下水道の使用制限がかかります。

●健康被害
降灰により、目・鼻・のど・気管支等に異常を生じることがあります。とくに、呼吸器疾患や心疾患のある人は注意が必要です。交通状況から通院できない場合や医療機関の機能低下に備えておく必要もあります。

このように、現代社会で不可欠なライフラインや人流・物流の途絶により大きな影響が出ることは間違いありません。対応する備えについては、下記に示すように基本的には地震などの大規模な災害と同じです。

① 電力不足対策 ② 水不足対策 ③ 食糧不足対策

私が推奨しているようにできるだけ10日以上、できれば1か月程度の量を家庭内流通備蓄を活用しながら十分に備蓄しておきましょう

ソーラータイプの発電ができないので、蓄電池や燃料型の発電機の備えや、室内に降灰が窓や換気口から入ってこないように目張りをすること、ベランダに積もる降灰を処理する袋とほうきとちりとり、ヘルメット、マスク、ゴーグルなども備えておきましょう。また、ぜんそくなど呼吸器系疾患の持病があるかたは、首都圏以外の長期的に頼れそうな親族、知人、ホテルなどの施設に避難することも考えておきましょう。

マンションにおいては、大規模災害時の停電、断水対策の他に、降灰袋の入手、収集までの仮置場、エントランス、ホール、駐車場の降灰処理対応について検討しておきましょう。

国崎 信江氏プロフィール/危機管理教育研究所 代表 危機管理アドバイザー

【主な経歴】横浜市生まれ。女性や生活者の視点で家庭、地域、企業の防災・防犯・事故防止対策を提唱している。講演、執筆、リスクマネジメントコンサルなどの他、文部科学省「地震調査研究推進本部政策委員」、東京都「震災復興検討会議」委員などを務める。現在はNHKラジオ マイあさ!の「国崎信江の暮らしの危機管理」のコーナーやテレビ、新聞などで情報提供を行っている。著書に『地震の準備帖―時間軸でわかる心得と知恵』(NHK出版)『サバイバルブック―大地震発生その時どうする? 』(日本経済新聞出版社)『マンション・地震に備えた暮らし方』(エイ出版社)『これ1冊でできる!わが家の防災マニュアル』(明治書院)などがある。