TOKYO TRAVELOGUE東京紀行
街と人のリズム
2025 Summer
梅雨明けも近づいてきた七月某日の昼下がり。
日差しがめっぽう強くなってきたこの時期、水天宮前駅を出て浜町川緑道を歩くと、木々の葉のすき間からこぼれる光が全身を心地よく包み込んだ。
緑がつくる木陰には、ここが都会のど真ん中だとは思えない静寂感がただよっていて、思わず足が緩む。
と同時に、木陰に涼みながら読書にふける若者の姿が目に入り、つられて思わず腰を下ろし、静けさに耽るひとときを共有した。

思い立って再び歩みを進めていくと、そこには弁慶がそびえ立っている。これは『勧進帳』の名場面に登場する弁慶の姿を模した像で、その堂々たる姿はどこかユーモラスに感じられ、しばらく立ち止まって、眺めていた。
歩みを進めると浜町駅のすぐそばには、ナウマンゾウの化石「浜町標本」がこの地で発掘されたことを知らせる案内板がある。
江戸と古代の記憶が同居していることに、不思議さを感じながら、ようやく緑道を抜けて浜町公園に辿り付いた。

広い園内の一画には総合スポーツセンターもあって、人々の活気のある声がかすかに響いている。単なる公園というより、むしろ街の広場のような、人々の営みを自然に受け止めるこの場所は、住人にとって欠かせない、日常の風景なのだろう。
テラスで休憩していると、軽食を広げて談笑する老若男女や本を読む女性が思い想いの時間を丁寧に過ごしている様子が目に入ってくる。それぞれのリズムで過ごすその時間に、そっと混ざり込んだ。
時計を見ることもなく、ただ流れる時間のなかに身を置いてみると、並木道の隙間から夕日が差し込こんでくる。
高層ビルに囲まれた浜町ならではの一瞬のできごとだったが、ビルの谷間をまっすぐに照らし、その光が自分の歩く道にだけ注がれている様に、まるで今日一日の締めくくりを背中で感じられる錯覚にとらわれ、思わず立ち上がっていた。
隣接する明治座のたたずまいも、緑の風景に凛とした輪郭を与えていた。舞台と日常、歴史と今が、ほんの少し距離をとって共存している浜町ならではの風景だ。

ほどなくして次の予定へと向かうため足早に駅へ向かう。愛犬と散歩をする人や帰宅中のビジネスマン、下校中の子供たちとすれ違うなかで「それぞれの時間がそれぞれのリズムで進んでいる」ことの豊かさをあらためて噛み締めた。
ここは「住む」も良し、「観光」も良し。そして“ただ過ごす“ことも許される街。
次の機会には、夕暮れを見届けるつもりで、心ゆくまで、この街を堪能し尽くしたいと思う。